糖尿病の新薬情報−インスリン編
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インスリン注射法・調節の仕方などの詳細は、「インスリン治療ABC」を併せてご覧下さい

新規インスリン製剤
発売日 分 類 一般名 販売名
H20年6月 新規キット型インスリン インスリングラルギン
インスリンリスプロ
ランタス注ソロスター
ヒューマログ注ミリオペン
 同ミックス25注・50注・N注
H19年12月 持効型溶解インスリンアナログ インスリンデテミル レベミル注
H15年12月
H17年3月
二相性プロタミン結晶性インスリンアナログ インスリンアスパルト
インスリンリスプロ
ノボラピッド30ミックス注
ヒューマログミックス25・50注
H15年12月 持効型溶解インスリンアナログ インスリングラルギン ランタス注
H13年12月 超速効型インスリンアナログ インスリンアスパルト ノボラピッド注
H13年8月 超速効型インスリンアナログ インスリンリスプロ ヒューマログ注
 
新規インスリン製剤の作用・使用上の注意・変更時の注意

1.超速効型インスリンアナログ製剤について
■ 生理的インスリン追加分泌と速効型インスリン
正常人では食事を摂って血糖が上がり始めると速やかにインスリン分泌が増え、ブドウ糖を処理します。この追加分泌の補充に使われているのが速効型インスリンです。
しかし速効型といっても効き始めるのに時間がかかり、作用のピークは1時間半から2時間、そして6時間から8時間作用が持続します。これは6量体を形成するインスリンが皮下に注入され2量体から単量体となって吸収されるのに時間がかかるためです。

皮下からのインスリン吸収模式図
作用のピークと血糖のピークを一致させ食後血糖を十分抑えるためには食前30分前の注射が必須です。また持続時間がやや長いため食後血糖を十分抑えようとすると、次の食前血糖が下がりすぎるおそれがあります。注射の時間がずれると、食後血糖が抑えきれずその上、食前に低血糖を起こすおそれもありました。
糖尿病の合併症を防ぐために厳格な血糖コントロールが必要なのは言うまでもありませんが、低血糖が厳格なコントロールの妨げになっている可能性も指摘されています。
 
■ 超速効型インスリンについて
超速効型インスリンはアミノ酸を配列を変えることにより、皮下投与後6量体から単量体へ速やかに解離し、皮下から速やかに吸収されるようにしたインスリンアナログ製剤です。
血中濃度は速効型の約半分40分でピークに達し、ほぼ5時間で消失するという、生理的なインスリン追加分泌にかなり近づいた薬物動態を示します。
インスリン リスプロ
B鎖28位のプロリンと29位のリジンを相互に入れ替えた構造をしています
・ヒューマログ注カート・・・3ml(300単位)入りカートリッジ
・ヒューマログ注キット・・・3ml(300単位)入りキット
・ヒューマログ注・・・10ml入り(100U/ml)バイアル
インスリン アスパルト
B鎖28位のプロリンをアスパラギン酸に置換したインスリンアナログ製剤です
・ノボラピッド注300・・・3ml(300単位)入りカートリッジ
・ノボラピッド注300フレックスペン・・・3ml(300単位)入りキット
・ノボラピッド注・・・10ml入り(100U/ml)バイアル

超速効型インスリンアナログの構造(メーカーパンフレットより)
■ 超速効型インスリンのメリット
生理的な追加分泌に近づき持続時間が短くなったということで、以下のようなメリットを有しています。
・食後高血糖の改善
・低血糖発現頻度の減少
・食事直前の注射で食後血糖の抑制が可能
・食事の量が一定しないときは、食事の量に応じて食後に注射することも可能
■ 超速効型インスリン製剤使用上の注意
食事の直前に注射する必要があります:少なくとも15分以内
インスリン抗体の上昇は認められないとされていますが、今後長期の観察が必要
妊娠中の投与に関する安全性は確立されていない
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2.持効型溶解インスリンアナログ製剤(インスリングラルギン)について
■ インスリン基礎分泌と中間型および持効型インスリン
従来インスリン基礎分泌の補充には中間型や持続型(ウルトラレンテ)が使われてきましたが、これらの製剤は皮下注後の血中濃度にピークが見られるという問題がありました。例えば就寝前の中間型投与では、早朝の糖新生を抑え空腹時血糖を下げるだけの十分なインスリンを投与しようとすると、深夜就寝中に低血糖を起こす危険があり、朝の血糖が十分抑えられずまた安定しませんでした。
そのため一日1回の注射でピークがなく24時間安定して効果が持続するインスリン製剤が待ち望まれていました。
■ 持効型インスリンアナログ(インスリングラルギン)について
持効型インスリン(遺伝子組換え)はアミノ酸を配列を変えることにより、pH4の状態で溶解しているインスリンが、皮下の生理的pH7.4で等電点沈殿を起こし、徐々に溶解・吸収されるようにしたインスリンアナログ製剤です。
一日1回の投与で明らかなピークがなく、ほぼ一日にわたり作用が持続します。

皮下からの持効型インスリン吸収模式図
インスリン グラルギン
A鎖21位のアスパラギンをグリシンに置換し、B鎖C末端に2個のアルギニン残基を付加したインスリンアナログ製剤です
・ランタス注オプチクリック300・・・3ml(300単位)入りカートリッジ

持効型溶解インスリンアナログの構造(メーカーパンフレットより)
■ 持効型インスリンのメリット
一日1回の注射でピークがなく安定して効果が持続するため、
・低血糖(特に夜間)の危険性が少なく、十分な量が投与できる
・暁現象(Dawn phenomenon)の抑制
・朝または就寝前いずれでもよい(ただし毎日一定の時間帯に注射する)
■ 持効型インスリン使用上の注意
朝または就寝前どちらか一定の時間帯に注射します。
中間型からの切り替えでは、中間型2回投与による基礎インスリン補充を行っていた場合、中間型一日投与量から20-30%減量し低血糖の危険性を低下させた方がよいとされています。中間型1回の場合は同量で構いません。
妊娠中の投与に関する安全性は確立されていません
ランタス注は安定性試験の結果に基づき、使用開始後4週間を経過したものは使用しないようにしてください。
オプチクリックに装着する注射針はBDマイクロファインプラスまたはナノパスニードルを使用することとなっていましたが、2008年11月、「JIS T3226-2」に準拠したA型専用注射針であれば使用可能になりました。オプチクリックとペンニードルの組合せ使用に当たっては必ず箱・内袋の「JIS T3226-2A型」、または保護シールの「NIPRO」表示を確認することが必要です。
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3.持効型溶解インスリンアナログ製剤(インスリンデテミル)について
インスリン デテミル
インスリンデテミル製剤はインスリングラルギン製剤とは異なる機序でピークがなくインスリン作用をほぼ24時間持続させるインスリンアナログ製剤です。
下図のように、B鎖30位のトレオニン残基が欠損しB鎖29位のリジン残基がミリスチン酸によってアシル化された構造です。この脂肪酸側鎖により、自己会合しやすくなり、また注射局所や血中でアルブミンと結合しやすくなるため、インスリンデテミルの末梢組織への分布が緩徐となり、作用が長時間持続します。
レベミル注300・・・3ml(300単位)入りカートリッジ
レベミル注300フレックスペン・・・3ml(300単位)入りキット

持効型溶解インスリンアナログの構造(メーカーパンフレットより)
■ 持効型インスリン使用上の注意
インスリングラルギンに準ずる
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4.二相性プロタミン結晶性インスリンアナログ製剤について
インスリン アスパルト
インスリンアスパルトはB鎖28位のプロリンをアスパラギン酸に置換した超速効型インスリンアナログ製剤です。そのアスパルトと中間型のプロタミン結晶性インスリンアスパルトとの混合製剤がノボラピッド30ミックスアスパルトです。
・ノボラピッド30ミックス注・・・3ml(300単位)入りカートリッジ
・ノボラピッド注300フレックスペン・・・3ml(300単位)入りキット
同様の製剤として、H17年3月にインスリンリスプロ混合製剤(ヒューマログミックス25注・同50注)が発売されています。これは中間型インスリンリスプロとの混合製剤で、これにも300単位入りカートリッジとキットがあります。
それぞれの混合比率は下記の通りです。
一般名 販売名 超速効型 中間型
インスリンアスパルト ノボラピッド30ミックス注 30% 70%
インスリンリスプロ ヒューマログミックス25注 25% 75%
ヒューマログミックス50注 50% 50%
■ 超速効型インスリンアナログの混合製剤
食後高血糖の改善・食事直前の注射で食後血糖の抑制が可能で、低血糖の発現頻度を減らせるという超速効型インスリンアナログの特性を生かした混合型製剤です。

混合製剤の作用動態
■ 超速効型インスリンアナログ混合製剤使用上の注意
ノボラピッド30ミックスはよく混ぜてから注射することが重要です。特に初回使用時は、下記メーカーパンフレットのように手のひらで転がしさらに上下に振って沈殿がなくなってから注射するようにします。
その他食事直前の注射などの注意は上記超速効型インスリンアナログと同様です

ノボラピッド30ミックスの混ぜ方
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5.速効型インスリンから超速効型インスリンに切り替えるときは
中間型との組み合わせによる強化インスリン療法とCSII(持続皮下注)で速効型と超速効型を使ったときのインスリン作用動態を示します。
速効型を注射していたときのそのままの単位で超速効型に切り替えて良いとされていますが、果たしてそれでいいでしょうか?
2型糖尿病では殆ど問題ありませんが、基礎分泌も出ていない1型では問題があります。
現在一般的に行われている速効型+中間型による強化療法では、速効型の効果が多少オーバーラップすることで日中の中間型の作用が少なくなるのをカバーしているということがあります。
従ってこれをそのまま超速効型に変えると、特に食事の時間が空いてしまったようなときに、インスリン作用が不足して血糖が上昇する可能性があると思われます。そのため基礎分泌分のインスリンを増量したり、一日平均して効かせるために投与法を変更したりするなどの対処が必要になると思われます。中間型をそのまま使う時は朝と夜の2回に分割するといいでしょう。持効型溶解インスリン(グラルギン)やCSIIに変更すると、インスリン効果の山がなくなり、低血糖が減り安定することが期待されます。
■ 追加分泌補充のインスリン
速効型から超速効型への切り替えは、通常そのままの単位でよい。
ただし、持続時間が短く食前低血糖の危険が減るので、食後血糖をしっかり下げるために超速効型の単位を思い切って増やすことは可能。
■ 基礎分泌補充のインスリン
中間型を朝・就寝前(または昼・就寝前)2回に分割
持効型溶解インスリンアナログ(グラルギン)への変更
CSII(持続皮下注)
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6.新規キット型インスリン、ソロスターとミリオペン
2008年6月、インスリングラルギンとインスリンリスプロそれぞれにより使いやすく、より軽い力で注入できる新しいキット製剤が発売されました。
■ 持効型溶解インスリンアナログ・インスリングラルギン
持効型溶解インスリンアナログ製剤インスリングラルギン(ランタス注)は、基礎インスリン補充用として広く使われています。
しかし注入器に問題があり、キット製剤は2004年2月に全面回収、カートリッジ製剤はオプチペンプロ1からオプチクリックに切り替えられ、今日に至っています。
今回のキット製剤(ランタス注ソロスター)の発売で、ランタスもカートリッジ・キット・バイアルの3種類がラインアップされることになります。
■ 超速効型インスリンアナログ製剤・インスリンリスプロ
インスリンアナログ製剤インスリンリスプロ(ヒューマログ注)は、従来の速効型製剤に比べより速やかに吸収され、生理的な追加分泌に近付きました。
インスリンリスプロ製剤には、超速効型(ヒューマログ注)の他に、混合型(ヒューマログミックス25注・同ミックス50注)と中間型(ヒューマログN注)もあり、それぞれカート、キット、バイアルがありました。
今回のキット製剤(ミリオペン)は従来のキット製剤に比べ、単位設定が容易で注入圧も軽くなりました。
 
 ソロスター(上)とミリオペン(下)
  
単位設定ダイアル部の拡大(上:ソロスター、下:ミリオペン)
どちらもダイアルを回すだけで簡単に単位が設定できる 
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